「暑がり遺伝子」とは!

画像 科学の進歩は日進月歩、何とも面白い研究があるものだ。蠅の幼虫を遺伝子操作して1000種類作り、どのような温度を好むか調べてみると、「暑がり」「寒がり」「暑さ知らず」(温度に左右されない)という3タイプが見つかり、それに関係していそうな遺伝子が見つかったというのだ。

 何とも面白い研究である。「暑がり」や「寒がり」というのは、いえばその人の育ちに関係するものだとばかり思っていた。かく言う私は、若い頃はとても寒がりだった。高校生時代、冬になるとしっかりラクダのズボン下を履いていた。寒くてたまらないからだ。沖縄でさえそうなのだから、広島で大学生活をしていた時は、これはもう当然必需品である。

 ところが、それを友人のHに見つかり、こっぴどく笑い者にされた。この男、私のプログに何度も登場している男で、ヌーヴォーロマンだの安部公房だのといった、最先端の文学で私を脅した男である。「知らんのか!」おお、この恫喝に、「いや、知らん」と答える時の屈辱感。必死で読んだものである。

 この男が、また実にダンディーな男だった。後で聞いたところでは、かなり裕福な育ちらしかった。まあ、そうだろう。今にして思えば、ファッション雑誌から抜け出てきたような、何とも見事なコーディネートだった。私はと言うと、語るまでもなく、着古した靴下を日に干してからまた履くような、まあ現代の清潔な学生さんが目をそむけるような信じ難い生活だ。

 「伊達の薄着」という言葉がある。見栄えを気にする男が、我慢して薄着する様をいう言葉だ。もちろん私にとっては、絶対にありえない話である。もう秋口から、しっかりとズボン下を履き、しっかりと寒さをガードしていた。それを、よりにもよってHに見つかり、けちょんけちょんに笑い飛ばされたのだ。

 それが、遺伝子によるものだと分かっていれば、Hに堂々と抗弁出来たものを、何とも惜しいことである。京大に研究者による「暑がり遺伝子」の発見について伝えるニュース、以下紹介しよう。

【 「暑がり遺伝子」京大チーム発見 ハエで実験 体温調節を解明へ
               3月27日9時19分配信 京都新聞

 低温が好きな「暑がりのハエ」になる原因遺伝子を、京都大化学研究所の梅田真郷教授(生化学)らがキイロショウジョウバエの実験で突き止めた。動物が体温を調節するメカニズムの一端を解明する成果で、米科学誌「サイエンス」で27日に発表する。
 野生のキイロショウジョウバエは22度を好む。梅田教授は遺伝子を無作為に改変したハエの幼虫を約1000種類作り、幼虫が集まる温度を調べた。17.5度付近の低温に集まる「暑がり」28度付近に集まる「寒がり」幅広い温度に分布する「暑さ知らず」などいろいろな幼虫がいた。
 「暑がり」のハエの遺伝子を調べたところ、細胞膜を安定させ、情報を伝えるタンパク質ジストログリカンを作る遺伝子の働きが低下していた
 ジストログリカンがうまく機能しないと、細胞がカルシウムイオンを過剰に取り込んでエネルギー代謝が異常に進む。ハエは、異常な代謝を抑えようとして低温を好むのではないかという。
 ジストログリカンを作る遺伝子は人にもあり、ある種の先天性筋ジストロフィーの原因になると考えられている。人の重い病気にかかわる遺伝子が、ハエの体温調節にかかわっていたことになる。野生のハエなら生き残れない零下2度で1時間生き延びるハエもいた。梅田教授は「遺伝子の変異が繰り返されて、動物はさまざまな温度に適応してきたと考えられる」と話している。】(下線引用者)

 なるほど、地球の歴史は決して平坦ではない。氷河期や高温期を繰り返してい来ている。それに適応するために、様々な遺伝子の異変が起こり、「暑がり」や「寒がり」、また「暑さ知らず」のような、様々な資質を獲得したというのだ。納得である。

 ところで、このような多様性というのは、今後の自然環境の変化に対しても、とても重要なものに違いない。もし蠅が一様な資質しか持っていないとしたら、環境の変化で滅びてしまう可能性もあるからだ。生命というものが持っている巧妙な生き残り戦術、というように考えることが出来るのではないか。

 考えてみると、生命が誕生してからの30数億年の歴史は、それこそ危機の連続だったに違いない。化石として現在観察出来る様々な生物たち。それは、そんな環境の激変と戦った生命の記念碑、決して敗北せず今日まで続いてきた命の闘いの足跡、というように考えることができるのではないか。そう考えると、化石と言えども、何ともいとおしいものを感じさせられる。

 命は、様々に形を変えることで、その環境の激変との闘いに備え、そして勝ち抜いてきたように見える。その時々で生き残れず、闘いに敗れたものたちも、すべて我々の命につながっているはずだ。今日から振り返れば、それらは、小さな支流となって消えていったように見える。

 しかし、その小さな支流として新たな方向へ進んで行く数限りない多くの試みの総体が、今日を可能にしているのではないか。そのような、数限りない様々な盲目的試みがなければ、今日まで命は続いて来なかっただろうからだ。本流も支流もない。逆に、全てが支流であり、たまたま環境に適応出来たために生き残ってきた、というように見るべきなのだろう。

 蠅の持つ、暑さに対する遺伝的特質の多様性。それも、言わばそんな命の試みを意味していると思われる。命は、いまだ環境の変化に備え、準備しているのだ。その、どこから来るとも知れない命の深いたくらみに、厳粛な思いを抱かせられる。個々の生物としては限りある命だが、命そのものとしては決して滅んではならないのだ。

 また、ニュースを読んで感じたことだが、その遺伝子研究が、先天性筋ジストロフィーの原因解明につながる可能性もあるのではないか。人間における遺伝子の暴走が、蠅の遺伝子までさかのぼって観察することで、その作用機序の解明につながるとしたら、これはすばらしいことだ。研究が一段と進むことを期待したい。







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